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大阪高等裁判所 昭和38年(ツ)60号 判決 1963年11月29日

上告人 河田猶蔵

被上告人 宮下市郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

第一及び第七点について。

原審が、被上告人は本件係争地上の立木伐採に先立つ昭和二九年三月頃、訴外霜尾重太郎との間で、被上告人の所有地(二八七番地)と右訴外人所有地(二八五番地)の境界を、原判決添付図面(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)を順次結んだ線と定め、同年七月その旨記載した書面(乙第一号証)を作成し、更に同三三年六月二六日、舞鶴簡易裁判所において、右と同趣旨、及び、仮に右両地の真実の境界が右図面(ハ)(ト)(リ)を順次結んだ線であるとすれば、同訴外人は同日限り右協定線より東側の土地(本件係争地)を被上告人に対し譲渡する旨の和解をした事実を認定し(原判決挙示の証拠によれば右事実を肯認することができる。)、従つて、仮に本件両地の境界線が上告人主張の通りで、上告人が本件係争地上の立木を前記訴外人から買受けたとすれば、同訴外人は本件立木を上告人と被上告人の双方に対して譲渡したことになるものであるところ、上告人が立木所有権取得につき明認方法等の対抗要件を具備したことについては、なんらの主張立証もないから、結局上告人は自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗し得ない旨判示していることは、原判決理由の記載によつて明かである。而して原審は、前記協定線を協定した際既に裁判上の和解と同趣旨の仮定的所有権譲渡がなされ、裁判上の和解によつてこれを更に確認した事実を認定しているものであることは、判決全部を通続して窺われるところであつて、土地の境界線が協定された場合において真実の境界線と協定線が相違しているときは、特別の意思表示がない限り、両境界線にはさまれた土地は一方から他方へ譲渡される暗默の合意がなされていると認めるのが相当であるから、原審が右の趣旨で、上告人の本件立木所有権が被上告人に対抗できないと判断したことに違法な点がない。

上告人は、原判決言渡後前記二八五番地の土地について所有権移転登記を受けたからこれによつて対抗力を具備したと主張するけれども、上告人が原審において右主張をしていないことはその主張自体からみて明かなところであるから、右主張は本件についての上告理由としてこれを採用することができない。

第二、第三、及び第六点について。

右各論旨は、いずれも原審が適法になした証拠の取捨、ないし、事実認定を攻撃するに帰し採用することができない。

その余の上告論旨は、いずれも上告理由となり得ないことはその主張自体からみて明かであるから、これを排斥する。

よつて、本件上告を棄却し、上告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 小野田常太郎 柴山利彦 下出義明)

別紙 上告理由

一、被上告人との間に和解が出来たとあるが、道義として如何にして明認方法及び対抗要件を具備していないからと云つて、訴外霜尾重太郎との間に出来た契約事項を無視すべきでない。之に依りても先取権主張さるべきである。

二、壱号証地図について

昭和三八年三月(レ)第八八号立木所有権判決事実文中境界は地図の如きである事が確認されている。

三、訴外霜尾重太郎との間に和解が出来たとあるが、かゝる事実は道理としてみとめる事が出来ない。

右は口答にて弁明立証する。

四、乙第壱号証の成立は、認める事が出来ない。

五、乙弐号証の写真は本人が写した事が察しられる。地図について、はみとめる事が出来ない。

六、上告人と被上告人との間において、昭和三五年五月被上告人宮下市郎と和解出来たが、内契約事項中(口答にて)訴訟費用賠償については判決後示談にてなすと云ふ事で和解した証拠物が四号証である。

右に依りて昭和三三年舞鶴簡易裁判所にて訴外霜尾重太郎との和解条件は宮下市郎の意志に依りて無効たる事が四号証に依りて立証出来る次第である(四号証と記載しているのは甲第六号証の誤記であろう。)

判決事項については被上告人宮下市郎の意志及び上告人との間において(口答にて)出来たものである。

七、本件(レ)第八八号立木所有権確認等請求事件判決理由文(四頁参照)所有権取得につき対抗要件を具備していないとあるため土地所有権取得を以つて対抗要件を具備のため土地所有権移転登記なした次第である。

右を以つて被上告人との対抗要件の具備とする。

八、本件について代理弁護人の出廷は拒否する理由一、二、三、四等の事項を明かにしたい。和解について訴外人宮下久兵衛、同妻みねの横領意志がつよい為判決を要望する次第である。

九、境界明認方法としては舞鶴簡易裁判所昭和三八年四月(ハ)第一七号境界確定の訴として訴訟中である。

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